幻肢痛（げんしつう）とは、手足の切断や事故によって失ったはずの部分に「痛み」を感じる症状のことを言います。例えば、足を切断した患者さんが「つま先が痛む」「足のかかとが痺れる」といった感覚を訴えることがあります。実際には存在しないはずの部位に痛みが起こるため、不思議に思うかもしれませんが、これは脳や神経系の働きが関係しています。

人間の脳は手足や体の各部位を認識し、痛みや感覚を感じる「地図」のようなものを持っています。手足を失った場合でも、その地図は残っているため、失われた部位から痛みの信号が送られていると誤認し、幻肢痛として現れるのです。

 幻肢痛は日常生活に支障をきたすほど強い痛みを伴うことがあり、従来の治療法ではなかなか改善しないケースも少なくありません。

幻肢痛に対する鍼治療は、近年その有効性が注目されています。鍼治療がなぜ効果を発揮するのか、その理由には主に以下のポイントが挙げられます。

1. 神経の過剰な興奮を抑える

 　幻肢痛の原因の一つとして、切断された神経の断端（残った神経の端）が過敏になり、痛みの信号を過剰に送ってしまうことが挙げられます。鍼治療は、筋肉や神経を刺激することで血流を改善し、神経の興奮状態を鎮める効果が期待できます。その結果、痛みの信号が正常化し、幻肢痛が軽減される可能性があります。

2. 脳の痛みの認識をリセットする

　鍼刺激は体の異なる部位や経絡にアプローチすることで、脳に新しい感覚の入力をもたらします。これにより、脳の中にある「痛みの地図」に変化が起こり、誤認されていた痛みの信号が修正される可能性があります。

3. トリガーポイント鍼治療の有用性

　当院が行う「トリガーポイント鍼治療」は、痛みの引き金（トリガーポイント）となる筋肉や神経のポイントに的確にアプローチする方法です。幻肢痛を引き起こす周辺の緊張した筋肉や神経をほぐすことで、痛みの緩和や神経の機能回復が期待できます。

4. 自然治癒力を高める

　鍼治療は、痛みの軽減だけでなく、身体全体のバランスを整え、自然治癒力を高める効果があります。幻肢痛に苦しむ方の多くは、痛みやストレスで体調が悪化することが多いため、鍼治療によって心身のリラックス効果も得られます。

鍼治療で痛みの新しい可能性を

　幻肢痛は複雑な症状ですが、当院のトリガーポイント鍼治療をはじめとする鍼治療は、痛みの緩和に役立つ可能性があります。実際に「幻肢痛の正体は、トリガーポイントである」という文献もあります。

病院での治療だけでは改善しにくい方や、薬に頼りたくない方も、ぜひ一度ご相談ください。

痛みを軽減し、より快適な生活を送るためのお手伝いができれば幸いです。